岐阜県西部から福井県にかけて延びる根尾谷断層は、日本でもっとも有名な活断層の一つです。
この断層は、1891年に発生した濃尾地震によって地表に現れました。地震の際には地面が大きくずれ、場所によっては上下に6メートルほども段差が生じました。現在でもその痕跡ははっきりと残り、断層のずれを実際に目で見ることができる貴重な場所となっています。
断層は地質的には地下水の流れとも深く関わっています。断層によって岩盤が砕かれてできた「破砕帯」は水を通しやすく、そこから地下水や温泉が湧き出すこともあります。トンネル工事で破砕帯から大量の地下水が噴出して難工事になるというのは、プロジェクトXのような番組で目にしたこともあるかもしれません。また、火山から離れた温泉は断層由来のものが多いですが、それが熱を持っておらず温泉に当てはまらなければ湧水となるわけです。理屈的にはわかるのですが、確実に断層由来として知られている湧水はあまり多くなく、今回、根尾谷断層にそうした湧水があると知り訪ねました。今回紹介する「蛇池」。断層破砕帯に由来する湧水が静かに湧き出す、不思議な雰囲気をもつ場所です。
根尾谷断層
まずは根尾谷断層によってできた断層の写真で有名な、根尾水鳥の断層展望広場にやってきました。
ここは小学生の頃に読んだ学研まんが「地震のひみつ」で衝撃を受けた場所。実家にまだ残っていたので、そのページを引用します。

学習研究社「地震のひみつ」より引用
このいかにもな博士が登場するのがなつかしいですね。
おそらく「断層」という言葉もこれで初めて知ったのではと思います。
そしてそんな聖地にとうとう訪ねた現地の写真はこちら。

「断層展望広場」から断層の縦ずれポイント
道路は新しくなっていますが、地震直後の写真から変わらず、はっきりとした断層の高低差を確認できます。
右側のピラミッド型の屋根の建物は「根尾谷地震断層観察館」。ここでは断層の地層を間近で観察できます。

観察館内のトレンチ
1回の地震でできた6mの縦ずれ。その地震のすさまじさが伺えます。
館内では濃尾地震の状況や根尾谷断層についても詳しく解説されており、興味深く観覧ンすることができました。私はレンタカーで訪ねましたが、樽見鉄道の水鳥駅からも徒歩で数分でアクセスすることができます。
そして展示でも触れられていた蛇池に向かいます。
断層による湧水池「蛇池」へ
蛇池は地層断層館のある、根尾水鳥の縦ずれ断層ポイントから南に5㎞ほど行ったところにあります。

都市圏活断層図より 赤い線が断層
国道157号線沿い。特に案内等はないので、多くの人が気付かずに通り過ぎているだろう場所です。

蛇池
トンネル工事の断層破砕帯のイメージとは違い、静かな池です。
地図を拡大してみると、ちょうど根尾谷断層の真上にあたります。

蛇池付近の拡大
断層による湧水は、断層により地層が破砕され、それが水の通り道となって湧き出すものです。この蛇池、濃尾地震以前にもあったようですが、地震によりさらに大きくなり水量が増したとのこと。

下流側から。国道沿いの水路とはコンクリートで隔てられている
現在は南北の長さが70mほどでしょうか。断層に沿った感じの細長い池です。破砕帯に沿って深いところから湧き出しているのか、湧水の成分も気になるところです。

国道側からのぞむ
訪ねたのは時折みぞれが降る3月上旬。春になるとまた美しい姿を見せてくれるのではと思います。
蛇池からの小川は、金原の集落を通って流れていきます。

蛇池からの流れが金原の集落を流れていく
横ずれ断層と河川争奪
この蛇池からの谷、川の流れの流量の割りには規模が大きい谷です。こちらの谷について、根尾谷地震断層観察館では「横ずれ断層による河川争奪」でできた谷だと解説していました。
一般的な河川争奪は、浸食力の強い川(谷頭)が、隣接する緩やかな川の流域を切り崩し、その上流部の水系を自らの流れに取り込む地形現象です。これにより、水を奪われた川は流量が減り、元の川幅に合わない谷は「無能谷」と呼ばれます。この金原の谷は無能谷というわけですが、断層によるものとはどういうことでしょうか。
そのメカニズムは断層観察館の図書コーナーにあった本に詳しく解説されていました。

小井土由光編著「みのひだ地質99選」より引用
もともとまっすぐだった谷が、根尾谷断層によってどんどんずれていき、最終的には蛇行した根尾川に上流側が奪われてしまったとのこと。横ずれの距離は2㎞ほどになります。
このような谷は根尾谷断層に沿っていくつも形成されています。

根尾谷地震断層観察館の展示パネルより
蛇池から200mほど北に行ったところに、横ずれ断層を観察できるポイントがありました。

金原の横ずれ断層
クランク状にカーブするこの道路、これは濃尾地震の際にできた横ずれ断層の痕跡。
近くの解説板には8mほど横に動いたとあります。
観察館のパネルにもありましたが、谷のずれた幅である2㎞動いたということは約250回、マグニチュード8.0の濃尾地震と同程度の地震が発生したということになります。とても恐ろしい、そして地球の激しさを実感できる場所です。